薬剤師である私は、糖尿病の患者さんから「私は糖尿病だから、チョコレートなんて絶対に食べてはいけないですよね?」と質問を受けることが多いです。そのようなとき、私は「血糖値を改善したければ、カカオ含量70%以上のダークチョコレートを食べてください」と答えています。なぜならば、最近の研究により、チョコレートに含まれるカカオポリフェノールに血糖値を改善する作用があることがわかったからです。
しかし、チョコレートはその種類によって、血糖値に悪いものと良いものの両方が存在します。つまり血糖値を下げるタイプのチョコレートを選ばなければいけないのです。
今回は血糖値が気になる方で、チョコレートが好きな方に、どのような種類のチョコレートを選べばよいのか?チョコレートとどのようにつき合っていけばよいのか?最適な方法をお伝えしたいと思います。
チョコレートには3種類ある
血糖値が気になる方が食べてもよいチョコレートとは「ダークチョコレート」と呼ばれている種類のチョコレートです。ダークチョコレートとはどのようなチョコレートのか?わからない方もいると思いますので説明したいと思います。
まず、チョコレートには大きく分けて3つの種類があります。そもそも、チョコレートはカカオという植物の実の中に入っているカカオ豆(カカオビーンズとも呼ばれる)から作られます。カカオ豆を砕いて殻を取り除いたものを、カカオニブと言います。
カカオニブを焙煎して、さらに細かくすり潰すとカカオ豆の脂肪分であるカカオミルクが出てきて、ペースト状のカカオマスになります。このカカオマスの中には50~60%のカカオミルクが含まれています。このカカオマスがチョコレートの原料です。カカオマスに砂糖、乳製品、香料を加えて固めたものがチョコレートです。
チョコレートに含まれるカカオマス、砂糖、乳製品の配合バランスにより、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートの3種類に分けられています。また、ダークチョコレートはブラックチョコレート、ビターチョコレートとも呼ばれています。どれも同じものです。今回はわかりやすいようにダークチョコレートという呼び方で説明していきます。
ダークチョコレート
カカオマス、ココアバター、砂糖が入っており、乳製品がほとんど入っていないチョコレート。
ミルクチョコレート
カカオマス、ココアバター、砂糖、乳製品がすべて入っているチョコレート。
ホワイトチョコレート
カカオマスか含まれず、ココアバター、砂糖、乳製品が入っているチョコレート。
カカオ含量70%以上の糖質の少ないダークチョコレートがおすすめ
血糖値が気になる方には、カカオ含量70%以上の糖質の少ないダークチョコレートをおすすめします。なぜこのようなチョコレートをおすすめするかというと、2つの理由があります。
理由①:糖質が少ないから
最近、様々なメーカーから発売されている、カカオ含量の多いダークチョコレートには、砂糖などの糖質が少ないです。糖質0という商品もあります。
先程チョコレートの種類って説明したように、チョコレートはカカオマス、砂糖、乳製品をまぜて作られています。この中で血糖値を上げるのは糖質である砂糖だけです。カカオマスや乳製品が血糖値を大きく上げることはありません。つまり、チョコレートに含まれている砂糖の量が少なければ、血糖値を上げることはないのです。
砂糖が入っていなければ、甘くないのではないかと疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれらのチョコレートでは、糖質ではない人工甘味料をうまく利用して、おいしい味に仕上げられています。カカオの風味を味わいながら、甘味も楽しむことができます。人工甘味料は分解されても、ブドウ糖にはならないので血糖値を上げることはありません。
理由②:カカオポリフェノールが血糖値を改善するから
二つ目の理由は、カカオポリフェノールがたくさん含まれているからです。カカオポリフェノール○○mgと記載されている商品もあります。チョコレートに含まれる。カカオポリフェノールが血糖値を下げることが実験で分かっています。
〈インスリン抵抗性、インスリン感受性を改善した実験〉
2005年にサンサウレバルト病院で実施された臨床試験があります。健康な人に、ホワイトチョコレートとダークチョコレートをそれぞれ1日100g、30日間食べてもらい、その後、インスリン抵抗性とインスリン感受性を調べた試験です。
インスリン抵抗性とは、同じ量のインスリンが分泌されても、細胞組織でのインスリンの効き目が悪くなってしまっていて、なかなか血糖値か下がらない状態の事を言います。つまり、インスリン抵抗性が高いと、血糖値がなかなか下がらない状態であることを表します。
もう一方のインスリン感受性とは、同じ量のインスリンが分泌された時に、どの程度血糖値が下がるかということを表しています。インスリン感受性が高いほど、同じ量のインスリンが分泌されたときに血糖値がより下がりやすいです。つまりインスリン感受性が高いほど、血糖値は上がりにくくなります。
この実験では、大方の予想を裏切る結果が出ました。ホワイトチョコレートを食べたグループでは、インスリン抵抗性が高くなり、インスリン感受性が低下していました。逆に、ダークチョコレートを食べたグループでは、インスリン抵抗性が低くなり、インスリン抵抗性が高くなっていました。
この結果から、カカオを多く含んだダークチョコレートを食べると、血糖値が改善することがわかりました。なぜ、ホワイトチョコレートを食べた。グループでは悪影響が出たかというと、ホワイトチョコレートにはカカオマスが含まれていないからです。
このような結果となった原因として、カカオマスの中に含まれるカカオポリフェノールと呼ばれる成分が、インスリン抵抗性とインスリン感受性を改善する作用があるからだということがわかっています。
以上のように、血糖値を上げてしまう糖質が少なく、逆に血糖値を改善するカカオポリフェノールが多く含まれたダークチョコレートは、血糖値が高い方にはおすすめの食べ物です。しかし、注意して欲しいのは食べる量です。幾ら糖質が少ないからと言っても、過度に食べてしまえば糖質を取りすぎてしまうことになります。1日に25g程度を目安にしましょう。
チョコレートはカロリーが高くても太らない
薬局で患者さんに、カカオ含量の高いダークチョコレートをおすすめすると、「でも、チョコレートはカロリーや高いので、やはり太るのではないでしょうか?」とよく質問されます。そのようなとき、私は「糖質の少ないダークチョコレートは、適量ならば太りません」と答えています。なぜなのでしょうか?
理由:チョコレートに含まれる脂肪分は吸収されにくいから
確かにチョコレートのカロリーは高いです。板チョコ2枚で、ご飯3杯分のカロリーがあります。コンパクトにカロリーが詰まっている食品だということができます。これはチョコレートの原料になっているカカオマスの50%以上が、ココアミルクという脂肪成分でできているからです。ブドウ糖は1gで2キロカロリー、脂肪分は1gで9キロカロリー ですので、脂肪分の多いチョコレートはカロリーが高いのです。一見カロリーが高いチョコレート食べれば、太ってしまうように思われます。
しかし、高カロリーにもかかわらず、糖質の少ないダークチョコレートを食べても太らないのは、ダークチョコレートに含まれている脂肪の種類が他の食品とは異なるからです。
チョコレートに含まれている脂肪分は、パルミチン酸27.4%、ステアリン酸30.7%、オレイン酸32.3%、その他が9.6%です。これらのパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸という脂肪は、非常に吸収が悪い脂肪です。そのため同じ量の脂肪分を摂取しても、他の脂肪分とは異なり、吸収される量が少ないのです。
糖質が多く含まれるチョコレートを食べれば太る
このように、チョコレートに含まれる脂肪分では、太ることはありませんが、砂糖などの糖質がたくさん含まれているチョコレートを食べてしまうと、余った糖質が脂肪として蓄えられてしまいますので、太ってしまいます。
そのためチョコレートを選ぶ際には、糖質の少ない、ポリフェノール含量の多い商品を選ぶようにしてください。
以上のように、血糖値が気になる方は、カカオポリフェノールをたくさん含んだ、カカオ含量70%以上の糖質の少ないダークチョコレートを1日25グラムを目安に食べるようにしてください。糖尿病なので絶対に食べてはいけないと思っていたチョコレートを食べることで、血糖値を改善することができます。