糖尿病の食事療法である糖質制限の効果について知り、「自分もやってみよう!」と思っている人もいることでしょう。しかし、「自分は糖質制限をやっても大丈夫なのか?」と不安を感じている人も多いかと思います。
実際に糖質制限には、やってはいけない人が4パターン存在します。
今回は、「糖質制限をやってはいけない人がどのような人なのか?」を知ってもらい、糖質制限を始めても大丈夫なのかどうかを判断できるようになってもらいます。
それでは、「糖質制限をやってはいけない4パターン」について順番に説明していきます。
パターン1:肝臓病の人
1つ目は、肝臓病の人です。特に、「肝硬変」の人は糖質制限をやってはいけません。
なぜかというと、糖質制限をして血糖値が正常値よりも低くなったときに、体内でブドウ糖を作り出し、血糖値を正常値の範囲内に収まるようにコントロールできないからです。
正常な人の血糖値は70mg/dLの濃度以下にならないように保たれています。70mg/dLよりも血糖値が低くなってしまうと「低血糖」という危険な状態になってしまうからです。
血糖値が70mg/dLよりも低くなると、冷や汗が出て、手が震え、動悸がし、顔面が蒼白になり、脈が速くなります。さらに45mg/dL以下になると頭痛や眼のかすみを生じ、30mg/dL以下になると昏睡状態となって意識を失ってしまいます。
これは、脳や神経の組織が、エネルギー源としてブドウ糖を主に利用しているからです。このように「低血糖」は、脳に障害を残すこともある非常に危険な症状です。
そのため低血糖を起こさないように、私たちの体には血糖値が下がってしまったとき、ブドウ糖を体内で作り出す仕組みがあります。
血糖値が下がったとき、ブドウ糖を作り出してくれる臓器が「肝臓」です。例えるなら、食料がなくなったときに非常食を供給してくれるようなものです。
しかし肝臓病の人は肝臓の機能が弱っているため、このシステムがうまく作動しません。そのため、肝臓病の人が糖質制限をすると、血糖値が下がりすぎたときに正常範囲内に戻すことができず、「低血糖」を起こしてしまうのです。
こうした理由から、「肝臓病」の人は糖質制限をしてはいけません。
パターン2:インスリン注射やインスリンの分泌を増やす薬を使用している人
2番目は、インスリン注射や、インスリンの分泌を増やす薬を飲んでいる人です。低血糖を引き起こすリスクが高くなるからです。
はじめに、「インスリンとは何か?」について説明します。
インスリンというのは、もともと血糖値が高くなったときに「すい臓」いう臓器から分泌されるホルモンです。要は、血糖値を下げる物質がインスリンだと考えてください。
血糖値が高くなると、すい臓からインスリンが血液の中に分泌されます。血液によって「筋肉」「肝臓」「脂肪組織」に運ばれると、インスリンは以下のように働きます。
「筋肉」に運ばれたインスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉内に取り込みます。これにより、血液中の糖濃度(血糖値)が下がります。
「肝臓」でもインスリンは、血液中のブドウ糖を肝臓に取り込みます。
「脂肪組織」では、血液中のブドウ糖を取り込んで、他の成分と合体させることで「中性脂肪」として脂肪組織内に蓄えます。
以上のように、血糖値が上がるとすい臓からインスリンが分泌され、血液中のブドウ糖がそれぞれの組織に取り込まれ、結果的に血糖値が下がります。
ここで一旦、話をもとに戻しましょう。
インスリン製剤は、インスリンと同じ作用をする成分を血液内に注射する薬です。血糖値が高くないときでも、インスリン製剤を注射すれば、インスリンと同様に働き、血液内のブドウ糖を組織に取り込むように作用します。
つまり、血糖値の低い状態でインスリン製剤を注射してしまうと、低血糖を起こす可能性があるのです。
また糖尿病の内服薬には「インスリンの分泌を増やす薬」があります。これらの薬はすい臓にインスリンを分泌するように作用します。
血糖値が低いときでも、「インスリンの分泌を増やす薬」を飲めばインスリンの分泌を促してしまいます。そしてインスリン製剤と同様に、低血糖を起こす可能性があります。
あなたの飲んでいる薬が該当するかどうかわかるように、具体的に「インスリンの分泌を増やす薬」を以下に挙げます。
スルホニル尿素薬(SU剤) | 成分名 | 薬剤名 |
グリクラジド | グリミクロン | |
グリベンクラミド | オイグルコン、ダオニール | |
グリメピリド | アマリール |
速効性インスリン分泌促進薬 | 成分名 | 薬剤名 |
ナテグリニド | ファスティック、スターシス | |
ミチグリニド | グルファスト | |
レパグリニド | シュアポスト |
DPP-4阻害薬 | 成分名 | 薬剤名 |
シタグリプチン | ジャヌビア、グラクティブ | |
ビルダグリプチン | エクア | |
アログリプチン | ネシーナ | |
リナグリプチン | トラゼンタ | |
テネリグリプチン | テネリア | |
アナグリプチン | スイニー | |
サキサグリプチン | オングリザ | |
トレラグリプチン | ザファテック |
GLP-1受容体作動薬 | 成分名 | 薬剤名 |
リラグルチド | ビクトーザ注 | |
エキセナチド | バイエッタ注、ビデュリオン注 | |
リキシセナチド | リキスミア注 |
以上のように、「インスリン注射」や「インスリンの分泌を増やす薬」を使用中の人は、糖質制限を行う際は医師と連携して薬の量を調節していくことが必要になります。
自分の飲んでいる薬が何かわからない人は、糖質制限をしてはいけません。低血糖のリスクを避けるため、自分で勝手に糖質制限を始めないように注意しましょう。
パターン3:すい臓の病気の人
3番目は、すい臓の病気を持っている人です。
すい臓は、前述したようにインスリンを分泌する働きがあります。また、3大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)のうち、タンパク質と脂質を消化する酵素を分泌する働きもあります。
糖質制限をすると、炭水化物の摂取が減るため、タンパク質と脂質の割合が高くなります。つまり、高タンパク質・高脂質食になります。
そのため、すい臓はタンパク質と脂質を分解するために、消化酵素をたくさん分泌しなくてはならなくなります。その結果としてすい臓の負担が増し、すい炎が悪化してしまうのです。
以上のような理由で、「すい炎」などの病気をすでに発症している人は糖質制限をしてはいけないのです。
一方で健康な人の場合は、「高タンパク質・高脂質食」である糖質制限をしてもすい炎を新たに発症するリスクは上がりません。
パターン4:腎臓の病気の人
4番目は腎臓の病気の人です。
腎臓は血液をろ過して、必要な成分を体内に残し、不要な老廃物を尿にして排出する臓器です。つまり、体に必要な成分と不要な成分を選別する臓器です。
体に必要なタンパク質は、通常は腎臓でろ過されて尿中にはほとんど出てきません。つまり、体に必要なタンパク質が尿として流れ出さないように働いてくれるのが腎臓です。
しかし、「腎不全」などをすでに発症している人では、腎臓の機能がそもそも低くなっています。腎臓の機能が低い状態で「高タンパク食」を食べると、腎臓のタンパク質をろ過する仕事が増えるため、腎臓は処理しきれずに疲弊してしまいます。
その結果、「腎不全」などの人が糖質制限をしてしまうと症状を悪化させてしまうのです。
ちなみに、腎機能が正常であるなら、糖質制限は問題ないのです。
ここまで述べてきたように、万能な食事療法のように思われる「糖質制限」にも、やってはいけない人が存在します。
「自分が糖質制限をやってはいけない人に当てはまっていないかどうか?」をきちんと、判断してから始めることが大切です。
また、病気を持っていて自分で判断できないときは、必ず主治医と連携を取って糖質制限を行うことが必要です。
どんなに優れた治療法でも、誤った使用法をすれば大きなリスクを負うことになりますので注意しましょう。