「糖質制限を5年以上行うと死亡率が高まる」という報道を聞き、糖質制限を行うと死んでしまうのではないか? と不安に思っている方も多いかと思います。
しかし、糖質制限を行うことで死亡率が高まることはありません。
なぜならば、最も信頼度の高い8万人を20年間追跡した研究データにより、安全性が保証されているからです。
今回は、糖質制限が安全な食事療法であることを科学的に説明していきます。
糖質制限が死亡率を高めないことを証明した研究データ
糖質制限が死亡率を高めるのかどうかを判定するにはどうしたら良いのでしょうか? 主治医に聞くのが良いのでしょうか? それでは、医師によって経験も知識も違いますので、まちまちの答えが返ってきそうです。
では、どのように判断すればよいのでしょうか?客観的に判断するためには、厳格な管理の下で、平等な被験者を対象に行われた大規模臨床試験のデータを根拠にするのが、1番信頼できる手段です。
糖質制限が死亡率を高めないことは、最も信頼度が高い2つの大規模臨床試験で証明されています。それが2006年の「ナース・ヘルス・スタディ」と2008年の「ダイレクト試験」です。
データ① ナース・ヘルス・スタディ
糖質制限が死亡率を高めないことを証明した研究データがあります。それが、2006年に世界で最も信頼性の高い医学雑誌である「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に掲載された「ナース・ヘルス・スタディ」という研究結果です。
この研究は、8万人以上を対象に食事内容と病気の発生率を20年間にわたり追跡調査したものです。具体的には、炭水化物、脂質、タンパク質の摂取比率によって被験者を10段階に分けてグループ分けをし、病気の発生率を比較しています。
20年間の調査の結果、2つのことが証明されました。1つ目は「高脂質・高タンパク質の食事をしても、冠動脈疾患のリスクは上昇しない」こと、2つ目は「糖質の摂取量が多いと冠動脈疾患のリスクが高まる」ことです。冠動脈疾患とは、心筋梗塞など死に直結する病気のことです。
この研究で注目していただきたいところは、20年間にわたって調査をしていることです。つまり、長期にわたって糖質制限を行っても、死亡率は上がることがないことを証明しています。
データ② ダイレクト試験
糖質制限が死亡率を高めないことを証明した2つ目の研究心が、2008年に「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に掲載された「ダイレクト試験」です。この試験は、322人の被験者を3つの食事法のグループに分け、血糖値・体重の変化と脂質の状況を2年間にわたって追跡調査したものです。
3つの食事のグループとは、低脂肪食、地中海食、低炭水化物食(糖質制限食)です。低脂肪食と地中海食のグループでは、男性1800kca、女性1500kcalというカロリー制限が行われました。低炭水化物食のグループでは、糖質は抑えるがカロリー制限は行われませんでした。
結果は、次のようになりました。
2年間で血糖値を1番下げたのは、低炭水化物食(糖質制限食)、次が地中海食、最下位が低脂肪食のグループでした。また、体重減少では、1番下がったのが、-4.7kgで低炭水化物食(糖質制限食)、次が-4.4kgで地中海食、最下位が-2.9kgで低脂肪食のグループでした。
また、低炭水化物食(糖質制限食)のグループでは、死に直結する病気である脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる動脈硬化のリスクを低下させることが証明されました。
このように、「ナース・ヘルス・スタディ」と「ダイレクト試験」の信頼度が最も高い2つの臨床試験により、糖質制限が死亡率を上げないことが証明されています。
糖質制限を5年以上続けると死亡率が1.31倍になることを証明したデータ
それとは反対に、「糖質制限を5年以上続けると死亡率が高まる」という報道がされた原因となった研究データについて見てみましょう。
2013年に、アメリカの科学雑誌「プロスワン」誌に「糖質制限ダイエットを5年以上続けると死亡率が高まる」という研究論文が掲載されました。この研究論文が、糖質制限が危険であると報道された根拠になっています。
この研究論文は、「ナース・ヘルス・スタディ」や「ダイレクト試験」とは全く異なった研究手法によるデータです。
「ナース・ヘルス・スタディ」や「ダイレクト試験」は無作為比較試験という最も信頼度の高い試験です。治療法の有効性などを検証するために、被験者をランダムに処置群と比較対象群に分けて、試験を実際に実施し、治療法の有効性を評価する方法です。無作為比較試験は、研究方法の中で最も信頼度高い研究方法とされています。
一方の「糖質制限を5年以上続けると死亡率が高まる」という研究論文は、メタ解析という方法による研究です。メタ解析とは、他の人が行った複数の研究データを統合して、分析する方法です。実際には9論文をまとめて解析した結果になっています。
そもそも、9論文は試験の目的も対象となる被験者もバラバラです。それらの論文をまとめて結論を出すことには無理があります。さらに、この9論文の中には非常に信頼度の低い論文が含まれており、メタ解析の結果も信頼性の低いものと考えられています。
さらに、掲載された雑誌の信頼度も全く異なります。
「ナース・ヘルス・スタディ」と「ダイレクト試験」は、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に掲載されました。「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌は医学雑誌の中で一番信頼性の高い雑誌です。
一方の「糖質制限ダイエットを5年以上続けると死亡率が高まる」という研究論文は、「プロスワン」誌に掲載されました。「プロスワン」誌は著者が掲載料支払うタイプの雑誌です。研究方法が大きく間違っていなければ、ほとんどの論文が掲載される雑誌です。
世界最高峰の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌と比較してしまうと信頼性に大きな差があります。
このように「糖質制限を行っても死亡率が高まらない」ことと「糖質制限ダイエットを5年以上続けると死亡率が高まる」という矛盾した結論は、その根拠となる研究データの信憑性が大きく異なっているのです。
すなわち、研究手法と記載された医学雑誌の信頼度から明らかに「糖質制限で死亡率が高まらない」ことが科学的に正しいのです。