糖尿病治療の一つに、「食事療法」があります。
食事療法とは、簡単に言うと「食事の内容を見直すことで、血糖値を改善させよう」という治療法です。
食事療法にもいろいろ種類がありますが、通常病院で医師から指導を受けるのは「カロリー制限」と呼ばれる方法です。多くの人は、カロリー制限を守るために、日々涙ぐましい努力をします。
カロリー制限を実行するには、食事のたびにカロリーを気にし、脂っこいものを避けなくてはいけません。また、極力お酒も飲まないようにする必要があります。
ところが、この方法では、受診のたびに「血糖値が変わっていませんね。きちんと食事に気をつけていますか?」と医師から指導を受けるケースが多いのです。
「カロリー制限の成果が出ない」という悲しい状況に陥る人は、私の薬局にやってくる患者さんの中だけでも、100人はいます。
私は薬剤師としてそのような人に接するたびに、「毎日、食事に気を使っているのに気の毒だな」と感じます。
しかし、医師の指導する食事療法の成果が出ないのはあなたのせいではありません。
「カロリー制限」に代表される従来の食事療法では限界があることが原因なのです。
そのような中、最新の研究結果から従来の食事療法に代わる新しい食事療法が発表されました。
それが「糖質制限」です。
糖質制限は、一般には「カロリーを気にせず、好きなだけお肉やお酒を食べても糖尿病が良くなる」というフレーズで知られています。
実際に、薬局にくる患者さんの中にも、糖質制限をしている人がいます。その人達は、従来の食事療法では「食べてはいけない」とされていたお肉や天ぷら、お酒などを食べているにもかかわらず、血糖値を改善することができています。
今回は「そもそも糖質制限とはどういうものなのか」について解説していきます。
そして、糖質制限を理解する上で欠かせない「糖質」と「血糖値」についてもお伝えしていきます。
糖質制限について学ぶことで、より効率の良い血糖コントロールをしていきましょう。
糖質とは何か?
糖質とは何かを考える上で欠かせないのが、「私たちはどうやってエネルギーを作り出しているのか」ということです。
結論から言うと、私たち人間は食事をすることによってエネルギーを作り出しています。
私たち人間が食事をすると、食物は体の中で消化・吸収されます。そして、吸収された栄養素はエネルギーとなります。
作り出されたエネルギーは、体を動かしたり、頭を使ったり、体温を維持したりすることに使われます。
人間がエネルギーとして利用できる栄養素は3つだけです。
それは「炭水化物」「脂質」「タンパク質」です。
炭水化物には、米、パン、麺類などの主食や芋類、砂糖などの甘いものがあります。
脂質は脂肪や油です。
そして、タンパク質は、お肉、魚、卵、大豆製品などです。
ここまで読んで、「肝心の糖質が出てきていない」と気づかれた方もいるかと思います。実は今回のテーマである「糖質」は、炭水化物の仲間に入るのです。
ごはんやパンなどの主食に多く含まれている炭水化物は、細かく分けると「糖質」と「食物繊維」になります。
糖質とは、文字通り「甘いもの」のことです。もう少し詳しく言うと、消化されて最終的に
甘い「ブドウ糖」になるもののことをいいます。
一方食物繊維は、人間には消化できず食べてもエネルギーにならないもののことを指します。
つまり 糖質=炭水化物-食物繊維 で表されます。食物繊維以外の炭水化物は、すべて糖質なのです。
ここで、注意したいことがあります。「糖質」と聞くと、ほとんどの人はお菓子などの甘いものを思い浮かべます。そして、お菓子を食べなければ糖質制限になると考えます。しかし、お菓子よりももっと恐ろしく日常に溶け込んでいる糖質があることを知っておかなくてはいけません。それがごはん(白米)です。
ごはんは食べても、ほとんど甘くありません。
しかし、ごはんは「デンプン」という糖質をたくさん含んでいます。「デンプン」は、糖質の正体である「ブドウ糖」が数百~数万個くっついたものなのです。
ごはんは甘くないため、一見糖質とはわかりません。そのため、糖質であるご飯を食べているにもかかわらず「自分は糖質を摂取していない」と勘違いしている患者さんがいます。しかし、ごはんは消化されると結局はブドウ糖になります。
つまり、ごはんはブドウ糖のように甘くはありませんが、ブドウ糖をそのままボリボリ食べているのと変わりないくらいの糖分を含んでいるのです。
ここで、主食の中にどのくらいのブドウ糖が含まれているのか、角砂糖(1個4g)で換算してみましょう。
その結果は驚くべきものです。6枚切りの食パン1枚に約8個分、ごはん(白米)1膳には約14個分、素うどん1玉には約14個分もの角砂糖が含まれていることになるのです。
これだけの角砂糖をそのままで食べるのは至難の業です。
しかし、ごはんや食パン、うどんであれば、角砂糖をそのままの状態で食べるのに比べて甘くないために、何の苦もなく食べることが可能になっているのです。
実際に、「甘いものは食べていないのに血糖値が下がらない」と言ってくる患者さんの中には、話を聞いてみると、「ごはんをたくさん食べている」人がたくさんいます。
「甘くない糖質」に注意しましょう。
血糖値を上げる栄養素は糖質だけ
血糖値とは、「血液中のブドウ糖の濃度(濃さ)」のことを指します。
先述したように、私たちが生きていくためのエネルギーを作り出す栄養素には「炭水化物」「脂質」「タンパク質」があります。
実は、この中で血糖値を上げているのは糖質だけなのです。
他の栄養素はどれだけ食べても血糖値を上げないことがわかっています。
通常、食事をすると食物の中の糖質が消化・吸収されて、30分~1時間程度で血糖値が最大になります。
つまり、血液中のブドウ糖の原料となる糖質を食べなければ、食後の血糖値が上がることはありません。
この「糖質を食べなければ血糖値は上がらない」という原則に基づいた食事療法が糖質制限です。
糖質制限のすすめ
糖質制限を始めると、あなたは甘いものや、主食のごはん、パン、麺類を減らした食事をすることになります。
しかし、「糖質」以外の「脂質」や「タンパク質」はどれだけ食べても問題ありません。糖質をほとんど含まない焼酎、ウイスキー、ブランデーなどのお酒も飲んで大丈夫です。
つまり糖質制限では、あなたはお酒を飲みながら、ステーキやてんぷらをお腹いっぱい食べることができるのです。
多くの医師がすすめている「カロリー制限」の食事療法では、あなたはお腹いっぱい食べることはできません。常に、腹八分の食事をしなければなりません。普通の人が空腹に耐えることは至難の技です。
一方、「糖質制限」ではお腹いっぱい食べることができるので、「空腹に耐えなくても良い」というメリットがあります。
実際に私の薬局でも、「カロリー制限」は続かなかったが、「糖質制限」を始めてみて効果が出た人たちがたくさんいます。
もしあなたが、今の食事療法で効果が出ていないなら、「糖質制限」を試してみることをおすすめします。
「糖質制限」で大好きなステーキやお酒を楽しみながら、無理なく血糖コントロールをしていきましょう。