薬剤師である私は、患者さんから「糖尿病の症状を教えてほしい」と聞かれることがよくあります。多くの方が、自分は糖尿病ではないかと不安を感じているようです。
そこで今回は、糖尿病になってしまった時の自覚症状についてお話していきます。
糖尿病になってしまった時には、5つの自覚症状が現れるのです。
糖尿病5つの自覚症状
糖尿病の判断基準としては、以下の5つの自覚症状が重要となります。
① 尿の量やトイレの回数が多くないか?
② のどが渇かないか?
③ 食べてもすぐにお腹がすかないか?
④ だるくて疲れやすくないか?
⑤ よく食べているのに体重が減っていないか?
私は患者さんに対し、これらの自覚症状に少しでも当てはまるものがあれば、すぐに病院で検査を受けるように指導しています。なぜなら、これらの症状が現れた時には、すでに血糖値がかなり高くなっている可能性があるからです。
それでは、それぞれの自覚症状について説明していきます。
① 尿の量が多くなり(多尿)、トイレの回数が多くなる(頻尿)
1つ目の自覚症状は、多尿と頻尿です。
血糖値の高い状態が続くと、尿の量が多くなりトイレに行く回数も多くなります。
通常、正常な人の1日の尿量は1~2Lです。3Lを超えてしまう状態を「多尿」と言います。また、朝起きてから寝るまでの間の排尿回数が、8回以上のは「頻尿」と言います。
では血糖値が高いと、なぜ、「多尿」「頻尿」という症状が出てくるのでしょうか? まずは、血液と尿の関係、腎臓の働きについて説明します。
① -1 血液と尿の関係(腎臓の働き)
血液の中には体に必要な成分だけではなく、有害な老廃物も含まれています。老廃物を含んだ血液は腎臓でろ過され、不要なものは尿として体外に排出されます。この働きにより、血液はきれいな状態を保っています。
例えるならば、腎臓はフィルターのようなものです。必要な成分はフィルターに残り、再びきれいな血液とともに体内を循環し、フィルターを通り抜けた老廃物は尿となります。
このフィルターの役目をしている器官を糸球体(しきゅうたい)と言い、糸球体を通過した老廃物を含んだ液体を「原尿(げんにょう)」と言います。原尿は最終的に尿になります。
それでは、血液の中のブドウ糖はどのように移動しているのでしょうか?
① -2 尿が増える理由
ブドウ糖は、体に必要な栄養素です。それにも関わらず、ブドウ糖は腎臓のフィルターを通過してしまいます。このままでは、体に残るべきであるブドウ糖は、老廃物と一緒に尿として体外に排出されてしまう恐れがあります。
しかし、糸球体の次に通過する腎臓の尿細管(にょうさいかん)という場所で、ブドウ糖は血液の中に再吸収されます。この働きにより、正常な人の場合は、原尿の中のブドウ糖が再吸収され、尿中に含まれません。
一方、糖尿病の人の血液にはブドウ糖が多すぎるため、フィルターを通過してできた原尿の中にもブドウ糖がたくさん存在しています。本来ならば、尿細管でブドウ糖は血液の中へ再吸収されるのですが、ブドウ糖が多すぎて再吸収が追い付きません。
そのため、原尿の中に残った大量のブドウ糖により、原尿の濃度が高くなってしまいます。原尿の濃度が高くなると、尿細管を取り囲む細胞中の水分が、原尿の中に引っ張られます。原尿の中に水分が引っ張り込まれることにより、原尿の量が多くなってしまうのです。
なぜ、このように水分が移動するかと言うと、水分は濃度の高い方から薄い方へ移動して、均等な濃度になろうとする性質があるからです。
例えば、ナメクジに塩をかけたら、小さくなったのを見たことがある人も多いことでしょう。これも同じ原理で生じる現象です。濃度の低いナメクジの体から、濃度の高い塩に水分が移動してしまい、ナメクジから水分が失われて小さくなってしまったのです。
以上のように、糖尿病で血糖値が高くなると、尿の量が多くなり、トイレの回数も増えてしまいます。このほかにも、尿中のブドウ糖の量が多くなるため、自分の尿が甘く臭うことがあるため注意が必要です。
自分の尿に注意を払うことは非常に大切です。排尿は誰でも毎日行うものです。日頃から自身でチェックしていきましょう。
② のどが渇き、水分をたくさん飲んでしまう(口渇・多飲)
2つ目はのどが渇き、水分をたくさん飲んでしまうという自覚症状です。
具体的には、のどがやたらと渇き、水分をがぶ飲みせずにはいられなくなります。のどの渇きのせいで夜間に目を覚ましてしまうこともあります。
高血糖になると、なぜこのような症状が出るのでしょうか?
これは、高血糖により尿の量が増えてしまうことで、体内の水分量が減り、脱水状態になってしまうことが原因です。
正常な体では、腎臓の尿細管で、水分が血液内に再吸収されます。ですが、原尿のブドウ糖の濃度が高いと、逆に水分を引き寄せてしまうために、尿量が増えてしまうのです。
糖尿病の人は、のどが渇く→たくさん水分を飲む→尿量が増える→のどが渇く、という負のスパイラルに陥ってしまいます。
私の薬局に来る患者さんの中にも、「血液をサラサラにしなくちゃ」と言って、やたらと水分補給をしている方がいました。この方も、検査をすすめたところ糖尿病であることがわかりました。今では、きちんと治療をされています。
このように一見、糖尿病とは関係なさそうな「のどの渇き」も糖尿病の早期発見の基準になります。
③ いくら食べてもお腹がすく
3つ目は「食事をしてもお腹がすく」という自覚症状です。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
健康な人の場合、食事をすれば食べ物が消化され、ブドウ糖が体に吸収されていきます。吸収されたブドウ糖は血液によって体内の個々の細胞へ運ばれ、エネルギー源として使われます。そのため食事をすれば、空腹感はなくなります。
しかし、ここで注意してほしい点があります。それは、血液の中から細胞内にブドウ糖を取り入れるためには、インスリンというホルモンが必要だということです。
糖尿病の人は、インスリンの分泌が少なくなっていたり、細胞でのインスリンの効き目が悪くなったりしています。そのため、血液内にたくさんブドウ糖があっても、細胞の中にブドウ糖を運び込むことができないため、エネルギー源として活用できないのです。
その結果、糖尿病の人は、たくさん食事をしても空腹感を覚えてしまうのです。
例えるならば、玄関の前まで宅急便が届いているにも関わらず、インスリンという鍵がないために、ドアを開けることができない状態です。せっかく食事をしても、細胞がドアを開けてブドウ糖を取り入れることができないのです。
最近、いくら食べてもお腹がすくという方は要注意です。
④ だるくて疲れやすい
4つ目は「だるくて疲れやすい」という自覚症状です。
具体的な症状は、「全身がだるくて何もしたくない」「いつも疲れがたまっているような感じがする」といったものです。
これも、インスリンの分泌不足とインスリンの効き目が悪いことが原因です。
人が消化した食べ物はブドウ糖に分解され、血液を通って細胞内に吸収されていきます。そして、作り出されたブドウ糖をエネルギー源として使うことで活動しています。筋肉、脳もブドウ糖をエネルギー源として使っています。
しかし、糖尿病の人は、インスリンの作用不足のため、細胞内にブドウ糖をうまく取り入れることができません。その結果、ブドウ糖を効率的に利用することができず、だるさと疲労感が現れます。
私の薬局に来た患者さんの中にも、「最近やたらと疲れるのよね、更年期かしら?」と言っている方がいました。この方も、トイレの回数が多いなど気になることがあったため、検査をすすめたところ糖尿病でした。
糖尿病以外の原因でも疲労感は現れることはありますが、糖尿病を疑うことも重要です。
⑤ よく食べているのに体重が減る
5つ目の自覚症状は「よく食べているのに体重が減る」ことです。
この原因もインスリンの作用不足です。
先述した通り、糖尿病になると、「インスリンの分泌不足」「細胞でのインスリンの効き目が悪くなっている」という現象が起こります。それにより、血液内にブドウ糖があっても、細胞はエネルギー源として利用できません。細胞のエネルギー源はブドウ糖であるため、このままでは、細胞は死んでしまいます。
しかし、ブドウ糖をエネルギー源として使えなくなったときのために、人体には、体内に蓄えている別のエネルギー源を利用する仕組みが備わっています。
それが、筋肉内のタンパク質や脂肪細胞内の脂肪を分解して、エネルギー源として利用する仕組みです。
糖尿病の人は、この仕組みにより筋肉内のタンパク質と脂肪を分解してエネルギーとして燃やしてしまうため、体重が減っていくのです。
どんなに食事をし、ブドウ糖が血中に存在していても、インスリンの分泌が少なく、インスリンの作用が悪いと、細胞内にブドウ糖が届きません。ブドウ糖がエネルギー源として使えないような状況では、「タンパク質と脂肪が代わりにエネルギー源となる」仕組みが働きます。そのため、糖尿病の人は食事をしても痩せてしまうのです。
実は、日本人の糖尿病患者の半数以上は肥満ではありません。欧米人の糖尿病患者のほとんどが肥満であることとは対照的です。
これはインスリンを分泌するすい臓の能力に、人種間で差があるからです。
インスリンをたくさん分泌できるすい臓を持つ欧米人は、たくさん食事をしてもインスリンもたくさん分泌されるので、細胞内にブドウ糖を取り入れることができます。
そのため、血糖値は下がりますが、細胞内にたくさんブドウ糖が取り入れられます。過剰に取り入れられたブドウ糖は脂肪として蓄えられます。そのため、欧米人は肥満になっていきます。
一方、日本人は食べすぎると、はじめの内はすい臓が頑張ってインスリンを出すのですが、インスリンの分泌能力が低いため、比較的早い段階でインスリンの分泌量が減ってしまいます。
つまり、インスリンを分泌するすい臓が疲れてしまうのです。日本人の糖尿病患者の多くはインスリンの分泌不足が原因で発症します。そのため、糖尿病患者に肥満の方が少ないのです。
糖尿病と言うと肥満を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、実際には体重の減少が糖尿病の発見の重要な判断基準になるのです。
今回は、糖尿病の主な自覚症状を5つ説明してきました。一般的に、このような自覚症状が現れるまでには、高血糖になってから5~10年たっていると言われています。
糖尿病が怖い理由はここにあります。。高血糖の状態が続いていても、初期の段階では自覚症状がありません。しかも、糖尿病はいったんなってしまうと完治しない病気です。
そのため、日頃からこの5項目に注意し、1つでも疑わしい項目があれば、すぐに検査を受けることをおすすめします。糖尿病は、少しでも早く治療を開始することが何よりも大切なのです。