薬剤師である私は、食事の量を減らすことに苦労している患者さんに、たくさん出会います。「先生から食事の量に気をつけてください、と毎回言われるけど、なかなか減らすことができないのよ」と多くの方がおっしゃいます。
医師から注意されるため、糖尿病の患者さんは、食事のカロリーを減らすことだけを考え、毎日辛い食事療法に取り組んでいます。しかし、人間は本能的に食べるカロリーを減らすことに非常に苦痛を感じるようにできています。なぜなら、古代から空腹感は生死に関わるサインだったからです。そのため、カロリーを減らす食事療法は、長続きしません。
しかし、食事の食べる順番を変えるだけで、同じ量の食事をしても血糖値が下がることがわかっています。残念ながら、食事の順番について意識している患者さんはほとんどいません。ぜひ皆さんにも、食べる順番を変えるだけで血糖値が下がることを知って欲しいと思います。
今回は、同じ量の食事をしても、血糖値が下がる正しい食べる順番について説明していきます。
野菜→おかず→ごはんの順で食べる
この方法は簡単です。「野菜→おかず→ごはん」の順番で食べるだけです。あまりに簡単なため、やり方を教えると拍子抜けしてしまう患者様も多くいます。しかし、この方法は、非常にシンプルな方法のため、誰でも長く継続することができます。そのため、多くの方がこの方法により、血糖値を下げることができています。
それでは、この方法についても少し詳しく説明していきます。
野菜、おかず、ごはんとは何か?
冒頭で述べたように、血糖値を下げるために最適な食べる順番は「野菜→おかず→ごはん」です。これでは表現が大ざっぱなため、野菜、おかず、ごはんとは具体的にどのようなものなのか、説明します。
ここで言う「野菜」とは、野菜、キノコ、海藻のことです。消化されて食物繊維となるものです。食物繊維とは、消化されて小さくなっても、腸内から血液の中へ吸収されないもののことです。
以前は、血液の中へ吸収されないため、食物繊維はあまり役に立たないものだと考えられていました。しかし、昨今の研究により、食物繊維が重要な働きをしていることが分かってきています。
次に食べるのが「おかず」です。ここで言う「おかず」とは、お肉、魚、卵、乳製品、大豆食品などタンパク質と呼ばれる食品です。これらは、消化されてアミノ酸になります。アミノ酸は筋肉を作る材料になったり、体外からの敵と戦う免疫細胞の材料になったりします。
最後に食べるのが「ごはん」です。ここでいう「ごはん」とは、米、麺類、パン、パスタなどの炭水化物のことです。ほとんどの方が主食として食べているものです。これらは消化されて、最終的に糖質になります。糖質は、体の中で細胞のエネルギー元として使われるものです。代表的なものにブドウ糖があり、お砂糖をイメージしてもらうと分かりやすいです。
つまり、食事を始めたら、まず野菜や、キノコ、海藻などを使った料理を先にすべて食べます。それから、メインのおかずである肉料理、魚料理、卵などを使った料理を食べます。そして最後に、主食であるごはんや、パン類、麺類などを食べます。
このように使われている食材によって、食べる順番を決めて、順番通りに食べるだけの方法です。この方法を行うことで、食事の量は減りません。ではなぜ、食べる順番を守るだけで、血糖値を下げることができるのでしょうか?
血糖値を上げるのは糖質だけ
食べる順番を守るだけで、血糖値を下げることができる理由を説明する前に、なぜ血糖値が上がるのかについて説明しておきます。
そもそも血糖値とは、「血液中のブドウ糖の濃度」です。食事で摂取した食べ物は、体内で消化され腸から血液の中に吸収されます。
皆さんも聞いたことがあると思いますが、食べ物は「炭水化物」「タンパク質」「脂質」の三大栄養素に分けられます。炭水化物の代表が、ごはん、パン類、麺類などの主食と呼ばれるものです。これらは消化されてブドウ糖になります。次にタンパク質は、肉、魚、卵、牛乳などです。これらは消化されてアミノ酸なります。筋肉など体を作る材料となります。最後に脂質は油などになります。脂質は分解されて脂肪酸という物質になります。
前述したように、血糖値とは血中のブドウ糖の濃度です。そのため、血糖値を上げる栄養素は最終的にブドウ糖となる炭水化物だけです。さらに、炭水化物を細かく分けると、糖質と食物繊維になります。食物繊維は腸で吸収できない繊維のことです。糖質は主にブドウ糖に分解されます。野菜は主に食物繊維でできています。そのため、「野菜→おかず→ごはん」を栄養素で言い換えると、「食物繊維→タンパク質→炭水化物」になります。
朝に果物をだけを食べていて、血糖値が上がってしまった例
私の薬局の患者さんで、自宅で血糖値を1日3回測定している方がいました。「朝食後の血糖値が非常に高いんだけど何でかな?」と相談に来られました。どのようなものを食べているのか患者さんに聞いたところ、「朝は体にいいので果物だけをたっぷり食べています」と言っていました。
実は果物は体に良いイメージがありますが、分解されると果糖という糖質になります。「糖質を多く含む果物だけを食べるのは、朝に糖質だけをたくさん食べているのと同じことですよ」と患者さんに伝えました。
この患者さんは、朝に果物だけを取る食事を見直すことで、血糖値を下げることができました。この例からもわかるように、糖質だけの食事をすると血糖値が非常に上がりやすいことがわかります。つまり、血糖値を上げる栄養素は糖質だけなのです。
食べる順番療法で血糖値が下がる3つの理由
「血糖値を上げるのは糖質だけ」ということを理解した上で、なぜ「野菜→おかず→ごはん」の順番で食事をすると血糖値が下がるのか、理由を説明します。
理由①:野菜に含まれる食物繊維が糖質の吸収を妨げるから
野菜の中には食物繊維がたくさん含まれています。食物繊維とは、たくさんの分子が連なった大きな物質です。そのため血液の中には吸収されず、そのまま便の中へ排出されます。昔は、食物繊維は、何の働きもしていない無駄なものだと考えられていました。しかし最近、食物繊維が非常に大切な働きをしていることがわかっています。
小腸の中に先に食物繊維があると、炭水化物を消化してできたブドウ糖の吸収を邪魔します。その結果、ブドウ糖の吸収が穏やかになり、同じ量の炭水化物を食べても、食後の血糖値が上がりにくくなります。
実際にこのことを実験で試したデータがあります。ごはん150gと野菜サラダの順番を入れ替えて食べた時の血糖値の変化を調べた研究です。食後30~60分後の血糖値の上昇が抑えられていることがわかります。
表:糖尿病53:112-115 2010 参照
理由②:先に野菜を食べることでインスリンを節約できるから
先程の研究では、同時にすい臓から分泌されるインスリン量も測定しています。その結果、野菜→ごはんの順番で食べた方が、インスリンの分泌の量が少ないにもかかわらず、血糖値が低く抑えられることが証明されています。
食物繊維がブドウ糖の吸収を妨げるため、血糖値の上昇が穏やかになり、インスリンを無理に分泌しなくても血糖値の上昇を抑えることができるからです。そのため、すい臓は無理をせずに血糖値をコントロールすることができます。このことは長い目で見ると、インスリンを出しすぎることによるすい臓の疲弊を予防できることを意味します。
日本人の糖尿病の患者の半数以上は、インスリンを出しすぎることによってすい臓が疲弊し、インスリンの分泌が不足してしまうことが原因です。一度すい臓が疲弊してしまうと、インスリンの分泌機能は多くの場合で元の状態に戻ることはありません。このことが、糖尿病が治らない病気であることの原因です。
理由③:野菜→タンパク質を先に食べることで、炭水化物を食べる前に満腹感が得られるから
3つ目の理由として、先に野菜とたんぱく質を食べておくことで、炭水化物を食べる前に満腹感が得られることがわかっています。
野菜やたんぱく質を食べるのに、よく噛むことで脳内のヒスタミンという物質が増加し、「もう満腹ですよ」というサインが脳に送られます。その結果、炭水化物を食べる頃には、満腹感が増しており、同じ量の料理が出てもたくさん食べずにすみます。
実践する際の注意点
ここまで見てきて、実際にやってみようと思った方も多いと思います。実践する際に注意しなければいけない点があります。それは、最初に野菜を食べるときに一気に食べることです。野菜を食べ始めたら、野菜をすべて食べてからおかずに移るようにして下さい。
なぜかというと、野菜を先に食べてもすぐに炭水化物を食べてしまうと、小腸に食物繊維や届く前に糖質がやって来てしまいます。そうすると、食物繊維による糖質の吸収抑制が機能しなくなってしまいます。その結果、せっかく野菜を先に食べても血糖値の上昇を抑えることが難しくなります。
以上のように、食べる順番療法は、「野菜→おかず→ごはん」の順番に食べるだけの簡単な方法です。食品のカロリーを計算したり、食べる量を減らす我慢をしたりする必要はありません。
非常に簡単な方法で、しかも食べる量を減らす我慢をする必要がないため誰にもでも実践することができます。しかも、継続率が高い方法です。私がこの方法を勧めた患者さんも多くの方が継続でき、実際に血糖値を下げることに成功しています。ぜひ、あなたも「野菜→おかず→ごはん」の順番で食事をするようにしてみてください。