健康診断で血糖値が高めだった方や、糖尿病で治療中だが血糖値がなかなか下がらないといった方々が、血糖値を下げるサプリメントや健康食品を探すとよく目にするのが「サラシア」です。
私も薬局で患者さんから、「サラシアが良いってよく聞くけど、飲んだら本当に血糖値が下がるのかな?」と相談を受けます。私は、「きちんとした科学的データを公表しているメーカーのサラシアであれば、効果は期待できます。」と答えています。
実際にサラシアを服用して、血糖値が改善している患者さんもいらっしゃいます。今回は、「サラシア」とはどのようなものなのか? また、サラシアは本当に血糖値を下げてくれるのか?詳しく説明していきます。
サラシアとは?
サラシアとは植物の名前
そもそもサラシアとは、植物の種類の名前です。特定の1種類の植物を指すのではなく、サラシアというグループの植物のことをいます。例えば桜の中にも、ソメイヨシノなどいろいろな種類の桜があるのと同じことです。サラシアにも、サラシアキネンシスなどいろいろな種類があります。
主に東南アジアの亜熱帯地域に広く分布していて、インド、スリランカなどに自生しています。現地では5000年前から健康維持に用いられてきました。
サラシアの有効成分
サラシアにはいろいろな種類があります。含まれている成分の一つではありません。そのため、それぞれの種類で含まれている成分も異なります。有名な有効成分には、サラシノール、ネオコタラノールなどがあります。これらの成分によって、食後の血糖値の上昇を抑えることが実験によってわかっています。
サラシノールは食後30分後の血糖値の上昇を抑制する
サラシアに含まれているサラシノールという成分が、食後30分後の血糖値の上昇を抑えることが実験結果からわかっています。以下がその実験結果です。
図
健常人14人に、サラシア由来のサラシノールまたはプラセボを摂取した後に、50gのショ糖を摂取してもらい、その後の血糖値の変化を測定しています。プラセボとは効果を発揮する成分を含まない、見た目や味が類似したもののことです。
上のグラフを見てわかるように、サラシア由来のサラシノールを摂取したグループの血糖値が、プラセボを摂取したグループよりも食後30分後の時点での血糖値が低くなっていることがわかります。
さらに、実験データのグラフを見る際に大切なことなのですが、「*」マークがついています。このマークは非常に大切です。科学の世界では、ただ数値が下がっただけではあまり意味を成しません。「*」マークは有意差があることを意味しています。「有意差」とは、統計学的にきちんと2つの数値の間には、明らかな差があることを数学的に証明していることになります。
例えば、小学生が夏休みの宿題で、2つの植木鉢の朝顔の花がいくつ咲いたかを記録してグラフにしたとします。2つの鉢で咲いた花の数に差があったとしても、その差は再現性があるとは言えません。一方で科学の世界では、実験によって得た数値の差に、本当に意味があるのかどうかを数学を駆使して証明します。
このグラフでは、「*」マークがついていますので、サラシア由来のサラシノールを摂取した場合は、プラセボを摂取した場合と比較して、食後30分後の血糖値の上昇が有意差をもって抑えられていることが証明されています。
サラシアに含まれる有効成分のサラシノールが、食後30分もの血糖値の上昇を抑えてくれることはわかってくれたと思います。ではなぜ、サラシノールは食後の血糖値の上昇を抑えることができるのでしょうか?その作用機序も、実験によって解明されています。
サラシノールが食後の血糖値を下げる仕組み
甘いものや、ご飯や麺類、パン類などの炭水化物に含まれる糖質は、単糖類がたくさん数珠のように連なってできています。このままの単糖類がたくさん連なった状態では、小腸から血液の中には吸収できません。
単糖類という1つずつの状態まで、消化酵素で細かくバラバラにする必要があります。単糖類が2つ連なった二糖類でも、吸収することができません。2つの単糖類がつながってできている二糖類を切り離して、ブドウ糖などの単糖類にバラバラにしてくれる酵素にαグルコシダーゼというものがあります。
サラシアに含まれているサラシノールは、このαグルコシダーゼが二糖類をバラバラに切り離す働きの邪魔をします。その結果、糖質の含まれた食べ物を食べても、吸収できる大きさまでバラバラにできないため、血液の中に吸収することができず、血糖値が上がりにくくなるのです。
αグルコシダーゼを阻害する薬が臨床では使われている
サラシノールと同じように、αグルコシダーゼの働きを邪魔して、血糖値の上昇を抑える薬が医療の現場で使われています。「αグルコシダーゼ阻害剤」という薬です。ボグリボース(薬剤名:ベイスン)、アカルボース(薬剤名:グルコバイ)、ミズーリトール(薬剤名:セイブル)があります。
これらの薬剤の効能は「糖尿病の食後過血糖の改善、耐糖能異常における2型糖尿病の抑制(ボグリボースのみ)」と添付文書に記載されています。つまり、サラシノールと同じような作用を持つ成分が、実際に医療の現場で、食後の血糖値の上昇の改善や、糖尿病の発症予防に使われているのです。
しかし実際には、糖尿病と診断されないとこれらの薬剤は処方してもらえません。糖尿病が一度発症してしまうと治らない病気であることを考えると、糖尿病発症する前に、サラシアを利用して食後の血糖値の上昇を抑えることが非常に有効です。
食後の血糖値を下げると良い2つの理由
サラシアに含まれるサラシノールが、食後30分後の血糖値の上昇を抑えてくれることがわかりました。ではなぜ、食後の血糖値の上昇を抑えると良いのでしょうか?その理由は主に2つあります。
理由①:糖尿病の発症を予防できる
通常、糖尿病の検査では「空腹時血糖値」と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」を測定します。食後30分後の数値なんて、健康診断では検査しないので疑問に感じる方も多いかと思います。ではなぜ食後の高血糖を予防することが大切なのでしょうか?
最近の研究によって、健康診断では糖尿病に引っかからないのに、ある日突然、糖尿病を発症してしまう方が増えています。これは「隠れ糖尿病」と呼ばれています。
〈食後過血糖(グルコーススパイク)〉
隠れ糖尿病の方は、空腹時の血糖値、過去1~2ヶ月間の血糖値の平均を表す HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値は高くなかったにもかかわらず、突然糖尿病になってしまいます。このような隠れ糖尿病の方の食後の血糖値を測定してみると、食後の血糖値が急激に上昇していることがわかりました。
食後に急激に血糖値が上がり、その後時間が経つと基準値内の血糖値にまで下がってしまうため、健康診断の項目では引っかからなかったのです。ここで、食後に血糖値が上がっても、基準値内に戻るのであれば特に問題ないのではないかと考えてしまう方もいるかと思います。しかし、この食後の急激な血糖値の上昇が糖尿病の発症に深く関わっています。
〈食後の血糖値の上昇→空腹時血糖値の上昇の順で糖尿病は進行する〉
食後の血糖値が急激に高くなると、すい臓は無理をして血糖値を下げるためのホルモンであるインスリンを分泌し、血糖値を基準値内に下げようと頑張ります。すい臓が元気なうちは頑張ることができますが、食後の血糖値の急上昇が何度も続くうちに、インスリンを分泌する能力が疲弊していきます。つまり、度重なる食後の高血糖は、徐々にすい臓のインスリン分泌能力を破壊してしまいます。
あまり知られていませんが、日本人が糖尿病を発症する原因の半分以上が肥満ではなく、すい臓の疲弊によるインスリン分泌の疲弊によるものです。一方、欧米人の多くは、肥満によって細胞組織でのインスリンの効きが悪くなること(インスリン抵抗性)が原因で糖尿病になります。欧米人はインスリンを分泌するすい臓が生まれつき強いため、すい臓が疲弊することがあまりないからです。しかし日本人は、欧米人に比較してすい臓がもともと強くないため、肥満になる前にすい臓が疲弊して、インスリンが出せなくなり、糖尿病を発症してしまう方が多いのです。
つまり、食後の高血糖が何度も続き、すい臓の機能が疲弊してくると、インスリンの出が悪くなり、その結果として空腹時血糖値や HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値が上がってきます。その時点で初めて糖尿病と診断されます。しかしその時には、すでにすい臓が疲弊してしまっているので糖尿病を治すことができません。
空腹時血糖値、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値がまだ低く、食後の血糖値だけが高いうちに、早めに対処しておくことが糖尿病の発症を予防するためには最も大切です。
理由②:食後過血糖で心血管死亡リスクが上がるから
食後の血糖値を下げると良い2つ目の理由は「食後の血糖値が著しく上がってしまう食後過血糖が、心血管死亡リスクを上げる」ことがわかっているからです。このことは、アジア人を対象とした臨床試験から証明されています。
文献3
この研究データにより、糖尿病の正常型、境界領域の方では、食後の高血糖が心血管死亡リスクを上げてしまうことがわかったのです。
上述してきたように、糖尿病が食後の血糖値の上昇が引き金となって進行し発症することがわかっています。食後の血糖値の上昇を抑えることが実験によって証明されているサラシアに含まれるサラシノールを摂取し、糖尿病を発症する前に血糖値をコントロールすることが非常に大切です。糖尿病は一度発症してしまうと治らない病気です。ぜひ、糖尿病と診断されてからでないと処方してもらえない薬剤と同系統の作用を持つサラシノールを利用して、糖尿病の発症の予防をしていただきたいと思います。