糖尿病と診断され、「もう二度と糖尿病が治らないかもしれない」と不安を感じている人も多いかと思います。
では、一度でも糖尿病と診断されたら、治療をしても糖尿病は治らないのでしょうか?
結論から言うと、糖尿病は完治しません。
しかし、きちんとした治療を続け、血糖値をコントロールできれば、健康な人と同様な生活を送ることが可能です。
このページでは、糖尿病が完治しない理由と、健康な人と同様な生活を送るための具体的な方法について説明します。
糖尿病の原因は「インスリン分泌障害」と「インスリン抵抗性」
糖尿病が完治しない理由の前に、糖尿病になる原因について説明しておきます。
糖尿病は、慢性的に血液中のブドウ糖の濃度が高くなる病気です。
健康な人では、食事をして血糖値が高くなると、すい臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは、簡単に言うと血糖値を下げるホルモンです。
インスリンの働きにより、血液中のブドウ糖は、肝臓、筋肉、脂肪組織の細胞内に取り込まれます。そして、細胞内に取り込まれたブドウ糖は、肝臓と筋肉ではグリコーゲンというブドウ糖の塊にして蓄えられます。また脂肪組織では、ブドウ糖は脂肪細胞の中に取り込まれ、中性脂肪に合成されて蓄えられます。
その結果、血液中のブドウ糖は細胞内に移動し、血液の中のブドウ糖の濃度は下がります。この仕組みにより、血糖値は正常範囲内に収まっているのです。
しかし、すい臓からのインスリンの分泌量が減ってしまったり、組織でのインスリンの効きが悪くなったりすると、血糖値が下がらなくなってしまいます。
インスリンの分泌量が減ってしまう「インスリン分泌障害」とインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」の2つが糖尿病の主な原因です。
糖尿病が完治しない理由
先述したとおり、糖尿病は完治しません。その理由について、「インスリン分泌障害」と「インスリン抵抗性」の2つの側面から考えていきましょう。
まず、インスリンの分泌が減ってしまう理由について説明します。
インスリンは、すい臓の中にあるβ細胞という細胞から分泌されます。
若い人に多い「1型糖尿病」では、遺伝的な要因とウイルス感染などが引き金となり、自分の免疫がβ細胞を破壊してしまいます。
β細胞の破壊が、80~90%以上に及ぶと高血糖の症状が発症し、1型糖尿病と診断されます。さらに破壊が進むと、インスリンの分泌が完全になくなってしまいます。
1型糖尿病では、自己免疫によって破壊されたβ細胞が元に戻ることはないため、糖尿病が完治することはありません。
一方、糖尿病患者の9割を占める「2型糖尿病」は、食べ過ぎや運動不足による肥満が原因です。
食べ過ぎの場合、血糖値を下げるためにβ細胞はインスリンをたくさん分泌しなくてはなりません。運動不足の場合は、エネルギーが消費されないため、細胞で使われるブドウ糖の量が少なくなります。
そのため、なかなか血糖値が下がらず、β細胞はさらに、インスリンをたくさん分泌しなくてはならなくなります。
その結果、インスリンを分泌し続けたβ細胞は疲弊してしまい、インスリンを少ししか分泌できなくなってしまいます。ひどくなるとβ細胞が死んでしまいます。
さらに、食べ過ぎと運動不足により肥満になってしまうと、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が増大します。なぜなら、肥満になると増える脂肪細胞には、インスリンの効き目を悪くする作用があるからです。
同じ量のインスリンが分泌されても、インスリンの効き目が悪くなってしまうため、血糖値がなかなか下がりません。そのためβ細胞は、インスリンを出し続けなければなりません。
このように、すい臓のβ細胞がインスリンを出し続け、疲弊したり死んでしまったりすると元には戻りません。そのため、糖尿病は一度なってしまうと完治しないのです。
治療しても無駄なのでは?
「治療をしても完治しないのであれば、治療をしても無駄なのではないか?」と考えてしまう人もいることでしょう。
しかし糖尿病では、完治しなくても治療をすることが非常に大事です。なぜならば、糖尿病が進行すると非常に怖い他の病気を発症してしまうからです。
例えば、糖尿病網膜症になると失明に至り、糖尿病腎症になると透析をしなくてはなりません。また、脳梗塞や心筋梗塞を発症すると死に至ることがあります。つまり、完治することができなくても、これらの合併症を予防することが治療の最大の目的となります。
通常の糖尿病の治療は、3段階に分かれています。
糖尿病と診断されると、まず食事療法と運動療法が試されます。それで血糖値が下がらなければ、内服薬による薬物治療が行われます。内服薬でも血糖値が改善されなければ、インスリン注射による治療がなされるのです。
食事療法と運動療法、薬物療法により血糖値を適正な範囲内にコントロールできれば、合併症を発症することもありません。このような状態であれば、糖尿病が治ったわけではありませんが、健康な人と同じように生活できます。
さらに、適切な治療を受け、継続的に血糖値のコントロールが良好に保てるようになれば、医師の判断の下で、薬の量を減らしたり、薬を中止したりできる場合もあります。
食事療法と運動療法は、引き続き継続しなくてはなりません。しかし、薬を飲まなくて良いならば、ほとんど糖尿病が治ったのと同じような状態と言えるでしょう。
薬を使わなくてもよくなる可能性が高い人はどんな人?
それでは糖尿病と診断された人の中で、どのようなタイプの人が薬を使わなくてもよくなる可能性が高いのでしょうか?
薬を使わなくてもよくなる可能性のある人には、大きく分けて、2つのタイプがあります。
1つ目は、糖尿病が進行していない初期に治療を開始した人です。なぜならば、初期に治療を開始すればするほど、β細胞の疲弊が少ないからです。
逆に、治療の開始が遅くなれば遅くなるほど、β細胞の疲弊は進んでいます。一度疲弊し、死亡してしまったβ細胞は蘇ることはありません。
2つ目は、肥満であり、食生活の乱れと運動不足が顕著な人です。このタイプの人は、食事療法と運動療法により効果が現れることが多いです。
逆に、食事療法や運動療法であまり効果が出ないタイプの人は、肥満がなく、食生活に問題がない人です。先天的なインスリン分泌障害がある場合が多いです。そのため、食事療法や運動療法では、なかなか効果が出ないことが多いです。
以上のように、糖尿病は治療により完治することはありません。しかし、適切な治療を受けることで、合併症の発症を防ぐことができます。
また、血糖コントロールを継続して上手くできれば、食事療法と運動療法だけで健康な人と同じような生活を送ることが可能な場合もあります。
糖尿病は完治できない病気ですが、早期に治療を開始し、適切な治療を受け、血糖値を正常範囲内にコントロールしさえすれば、健康な人と同様な生活を送ることができるのです。